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留学の意外な事実

ものすごく遅い出だしで始まるのですが、聴いているといかにもブラームスらしいんです。
楽譜には忠実ではないけれども、ブラームスにはすごく忠実である。
ああいう演奏はドイツ人だったら絶対できないだろうと思う。
グールドはカナダ人であることによって、ドイツ人には出せないブラームスの音楽を引き出している。
そのような、作品にあった音の作り方というものはあるのでしょうか。
C)ウィーンの音楽を演奏するときにウィーンに行く、フランスのものだとパリに行って音楽を聴いたほうがいいですし、そこの背景を知ることは大切だと思います。
だからといってフランスの音楽がうまく弾けるかといったら、それは自分かどういうふうに感じているかの問題ではないかなと思います。
父も合奏団を主宰して指導していましたが、自分たちがこういうふうに演奏したい、それが一つになったとき、合奏団の音になる。
それがほんとうの音楽ではないか。
ただ、作品の背景や、形式、作風といったことはどの曲に対しても考えるけれども、そのあとどういう音を出してどう表現するかは弾き手の問題である、というふうに父は思っていました。
その曲の作風や、奏法はすごく研究し、それには忠実に演奏するように常に心掛けていました。
でもそのときの感情で、同じ曲でも、一〇年前に演奏したのと、いま演奏したのではぜんぜん違ってきますし、音もカラーも違ってきます。
そのときの感性、経験などが常に変化しているので、感じ方も変わってくるのです。
曲に対しても感じ方は変化します。
しかしどういった場合でも、曲の形式、作風は必ず意識しなければなりません。
R子)日本人でなくなるという必要もないですし、日本人が日本人のモーツァルトを弾けばいいんじゃないかとは言っていましたね。
C)邦楽を演奏したときに、必ず日本人の演奏がうまいかといったら、そうじゃない場合もあります。
逆に外国の方が演奏してくださったときのほうがいいときもあるのです。
「あ、さすが日本人のほうかいいね」ということは、あまりないかもしれない。
R子)音楽の調性、つまりハ長調はどういうふうに、ハ短調はどういうふうにということのほうをむしろ重要視していましたね。
英語を話すことよりも話す内容ができない人間になったらどうにもならないから、いろいろな知識や、内容の豊富な人間にならないとだめだということは言っていました。
U)テクニックだけいくらやっても、人間として中身かなかったら、音楽にならないということはよく聞きました。
R子)レッスンのとき、合奏の練習のとき、音楽の話をするというよりも、ぜんぜん関係ない話をしてみたりすることがよくありましたね。
音楽の話半分かな……。
C)たぶんそれも父は計算して、反応を見ながらいろいろな内容の話をしているのだと思う。
よく言っていましたのは、ぜんぜん違う話をしても、話を聴いている子はどんな状況でも興味をもって話を聴いている。
けれども話をしても手わるさをしたりしている子は、絶対学校でもそうだろう。
だから、成績も悪いと言っていましたね。
ちゃんと話を聴いていても、何を言っているのか子どもはぜんぜんわからない。
うちには社会人も来ていますから、中学生とか小学生の前でも難しい経済の話も出ていました。
一度私か、あの子たちはわからないんじゃないの、と言うと「うん。
わからんと思うわ」と言っているんです。
生徒さん同士も、合宿中に「ねえ、○○ちゃん、H先生の言うことわかる?」「わかんない」なんて言っている(笑)。
でも、そこでわからないままでも、先生がしゃべっていることに耳を傾けて、それがいつか大人になったときにわかればいいんだ。
それよりも、この子は自分に対して興味をもっているか、そこの場でいま話をしている人に意識が向いているかというのをみているのだ。
そういう子は、楽器を弾くにしても、勉強などほかのことをやっていても、何でもできる。
何か聴かなければいけないときに一瞬の集中力があるかどうかを見極めるんだ。
聴いているふりをしている人もすぐわかると言っていました(笑)。
U)それは絶対わかりますね。
C)いかにもうんうんと言っているけれども。
考えていることは違うだろうって(笑)。
関係ない話もだてにしているわけではないと言っていましたけど。
その見極めがすごいと私は感心していました。
U)まさにそうだと思います。
まるっきり内容がわからなかったら、それは勉強が足らないからだと(笑)。
C)たまに小さい子どもに、「わかるか?」といって聞くと、質問されたこともわからないで「え?」というので、「わからんやろ。
勉強が足りんなあ」(笑)。
そうして「何言ってたの?」と、そこで生徒がひとつ興味をもったらしめたものだ、そこからまた何か問題提起ができる。
とも言っていました。
ある時合宿中に、子どもに「気の字がつく熟語を何でもいいからきょうの夜寝るまでにレポート用紙に書いてこい」つて言うんです。
資料は何でもいい、新聞でもいいし、合宿所にあるもの、どんなものでもいいからと言いますと、書かない子もいますし、練習そっちのけでそればっかりという子もいる。
難しいコンピュータの本を貸してくれという子もいれば、そのへんで適当に自分の思いつくものを書いている子もいます。
それを見て、父はひとつ問題提起したことによって、どれだけそこにのめり込むか、考えるかを見るのだと言っていました。
U)たぶんいちばん難しいのは、なかなかのめり込んでくれなかったり、集中してくれなかったりする子で、そういう子が増えてきているのではないかと思うのですか。
C)たくさん書いている子のを写している子がいたりするのを、見ていないふりをしながら見たりして。
その子その子の性格を見ているところもあったようです。
また、そういうことに関しては興味をもったり、探すのかうまい子もいるので、そればかりやっていたらだめだ。
それには興味をもたなかったけれども、そういう子には違うことでやってみようということもあります。
「ああいうことはいつも考えているの」と聞いたことがあります。
[うん、そうだ]とか言っていましたが、練習しながら、なんとなく全員が集中してない状況があると、突然のようにパッととめて、またどこか注意するのかなと思っていると、「きょう練習終わるまでに……」と言い出すんです。
U)うまく心理状態をつかんでいるわけですね。
それはほんとうに指導者というか、教育者ですね。
C)そうすると、そこで大人も一緒になって探したり、ふだんあまりコミュニケーションをとらなかった子ども同士も仲良くなったりするということもあります。
U)きょうは、聴いているとすごく勇気づけられるような話が多いですね。
ただ、なかなか現場の学校に適用できないのは、時間的な制約があるからだと思うのですが、いまのお話は教育のほんとうのあるべき姿だと思うんです。
C)父も、「でも現実は厳しい」と言っていました。
レッスンをしていてぜんぜんうまくいかない子もいますし、すごくうまくいっていたのに、何かの拍子で急ににだめになってしまったり。
先ほども話しましたように、途中でリタイヤするということをすごくきらっていました。
一回でもリタイヤしてしまったらだめだって。
レッスン中にまちがえて弾いたらやめてしまう、それもひとつのリタイヤだという。
そういうことが自分のなかにどんどん積み重なってくると、そこから前に前進して考えられなくなってしまう、悪い方向にしか考えられなくなる。
父の場合は音楽を教えるとか、技術を教えるというよりも、ものの考え方、ほんとうに人間的なものを教えようとしていたのだと思います。
U)人間ができていなかったら表現するものがないわけだから、音楽だって鳴らないわけですね。

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